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竹内淳の…やわらか音楽分析

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ホーム音楽の構成一点豪華主義?ちょっとこだわり作曲法

2008.2.15.相聞花伝「つづれおり」 記事用

<一点豪華主義?ちょっとこだわり作曲法> by 竹内淳

ラフマニノフ作曲「パガニーニの主題による狂詩曲第18変奏」…<譜例1>

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美しいメロディは、自分が美しいということを充分承知しているので、出る前に、周到に準備を施すことが多い。自分をどう見せれば引き立つかをよく知って行動しているのだ。

 

 作曲家がどういう手順で曲を作るかは、曲によって違うだろう。でもある曲の最も美しい部分を最初に思いついて、それ以外は後付けになるように作られた曲も多いのではないか。

1つにはラフマニノフ「パガニーニの主題による狂詩曲」。これなくしては成り立たないと言って良いほど、第18変奏が中心楽想になっている。だからこの曲全部が、とまでは言わないが少なくとも、第16、17変奏は、第18変奏の美を最良の形で引き立てるためにのみ成り立っていると言っていいと思う。それくらい暗く、地味なのだ。極端なことを言うと…、まずあの第18変奏を最初に思いつき、あとどうしようかとラフマニノフは考えた。ソミファソ/ド…そうかこれを裏返す(メロディを転回する)とドミレド/ソ…ふんふんラドシラ/ミ…。あのパガニーニの主題になるじゃないか、よし、それで変奏曲を書こう、…などと思い立ったことも充分考えられる訳だ。実際は知らないですが…ごめんなさい。

ポピュラーにはそのような一点豪華主義は多いと思う。作曲家がどうしても聞いてほしいただ1つだけのメロディを、まず思いつく。それを多くの場合、サビと呼び、最も目立つところに配置する…そしてそれ以外は、下手すると冒頭からして、敢えて何も印象に残らないようにする…ことだって考えられるのだ。

「キッス」の有名な曲「I Was Made for Lovin' You」のように、サビだけが異常に印象的な曲。どう聴いてもサビを最初に思いついたとしか思えない。…「君の瞳に恋してる」(ボーイズ・タウン・ギャング)、これは典型的なサビ一点豪華主義。「Frankie Goes to Hollywood」の「Relax」という曲はもっと極端だ。メロディらしいメロディがサビ1点に絞られ、他は…?。…実際に作曲家に会って、作曲の意図をお聞きしてみたい気がする。これが悪いとは言わない。本当の聞かせどころが1カ所であるという事。まさに1回つかんだら放さないすごみ。これは楽想の印象度の高さが、そのまま商品価値としての高さにつながっていったということ。

さて、またクラシックに戻ろう。ラフマニノフのあの曲を一点豪華主義で片付けるのはちょっと可哀想だが、あの曲の中で最も言いたかった「第18変奏」が、曲のターニングポイントであることは確かだ。美の山場。それまでの変奏は全てがそこに向かい、それ以降は「18」を超えることなくコーダに突き進む。実は、似たようなことはクラシック曲の現場ではよく起こることなのだ。その例を…。

クラシック曲は概して長い。だから単なる思いつきでは書けない。書く前にどんな曲を作ろうか、とメロディなどの断片を数多くスケッチするのが普通だ。(下書き無しで有名なモーツァルトなど例外はあるけど)。その過程で、どうしようもなく印象的なメロディのフレーズを思いついたら、どうするだろう?そのフレーズがどうしても頭から離れず、書きたい!という内的衝動が、全てそのフレーズ1点に絞られるとしたら…。その1点のフレーズがインスピレーションとしてどうしようもなく強く働き、他の部分は全てそれに向かって付け足していく手法をとることになるのではないか。

先のラフマニノフの例は変奏という大きな部分だったが、もっと小さな1フレーズが「偉大なる」発想の原点である曲もある。例として2つ。

チャイコフスキーのピアノトリオ「ある芸術家の思い出」の第1楽章第2主題。そのクライマックス130小節にある「ドレ /ファミ」というホ長調のフレーズ<譜例2>。それまでチャイコフスキーらしさそのままに長々とフレーズを歌い上げてきた、 その到達点が、この130小節のフレーズ1点に集約される見事さ。130小節への巧みな到達法は、130小節への思い入れそのものなのだ。まさにインスピレーション。

★ブラームスのバイオリンソナタ第3番終楽章第2主題。その到達点である104〜107小節<譜例3はその部分>。わずかこの4小節(再現部にもう1度出てくる)が、冒頭主題も含めた全ての到達点として集約されているといって過言ではない。それくらいブラームスは、この4小節を引き立たせるためにのみ他を存在させている、私はそう感じる。

ここで扱った例は、真の聞かせどころを、ただの1点に絞るという極端なものといえる。でもそこに作曲者の神髄を見ることは、その音楽の精神に一気に近づくことになる。作曲者の意図を見抜くなどというと格好良すぎるが、本当の名曲は、誰が聴いてもその意図が明確に伝わるからすごいのだ。だから今回書いたことは、きっと頷いていただけることと思う。
 

<譜例は下方> (無断掲載一切禁止。Copyright © 2008 竹内淳)

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